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賃上げの理由が「業績」から「人材確保」へ|人事部のAI活用は39.2%

賃上げを実施・予定する企業は73%に達し、判断要素の上位は物価29.7%・離職防止26.2%・優秀人材の採用強化24%。一方で人事部のAI活用は39.2%にとどまり、人員不足45.2%・専門性不足44.6%を抱えています。採用の当事者である人事部自身の体制問題を整理します。

賃上げの話は、これまで業績の話でした。それが変わったことを示すデータが出ています。賃上げの判断要素の上位は物価動向29.7%、従業員の離職防止26.2%、優秀人材の採用強化24%。 業績は上位に入っていません。そして同じ調査は、その施策を担う人事部自身が人員不足45.2%を抱えている実態も示しています。

調査の前提

パーソル総合研究所が2026年7月30日に発表した「人事トレンド調査2026」です。全国2,000名(係長以上の正規雇用者および経営・役員)を対象とし、分析対象は内資系企業の1,934名です。

回答者が係長以上に限定されている点に注意してください。現場層の実感とは異なる可能性があります。

賃上げの実施は73%まで拡大

年賃金を引き上げた/引き上げ予定改定なし
2022年61.8%25.5%
2026年73%7.8%

「改定なし」が4年で25.5%から7.8%へ、3分の1以下に減りました。 賃上げは一部の企業の判断ではなく、実施しないことのほうが例外という状態になっています。

判断要素の上位に「業績」がない

賃上げを判断する際の要素です。

要素割合
物価動向29.7%
従業員の離職防止26.2%
優秀人材の採用強化24%

上位3つのうち2つが人材確保に関するものです。賃上げが待遇改善ではなく、採用・定着の施策として実行されていることを意味します。

この結果は、別の調査とも整合します。日本商工会議所・東京商工会議所が2,260社に実施した調査では、賃上げ実施企業のうち60.9%が「防衛的賃上げ」(物価対応や人材確保が理由)と回答し、「前向きな賃上げ」(業績好調)は39.1%でした。小規模企業では防衛的が66.3%に上ります。

またマイナビの調査(3,590社)では、初任給を引き上げた企業89.1%のうち、**引き上げ理由の最多が「求職者へのアピール」59.8%**でした。

3つの調査が同じ方向を指しています。賃金は業績の結果ではなく、採用競争の手段になりました。

何が問題になるか

賃上げが採用施策として行われることには、構造的な難しさがあります。

1. 業績と連動しないため、下げられない 採用のために上げた賃金は、採用環境が変わっても下げられません。人件費は固定的に増えます。

2. 既存社員との整合が必要になる マイナビの調査では、初任給を引き上げた企業の49.7%が全社員の給与も引き上げています。採用のための施策が、人件費全体への波及を伴う構造です。

3. 賃上げできない企業との差が開く 小規模企業では賃金改定率3.52%、賃上げ実施・予定は59.9%、改定率0%以下が28.7%です。賃上げで競争する土俵に上がれない企業は、別の条件で戦う必要があります。

人事部のAI活用は39.2%

同じ調査は、人事部門のAI活用状況も示しています。

項目割合
人事部でのAI活用率39.2%
情報漏洩・プライバシー保護への不安66.7%
AI推進に関与していない45.6%

活用業務は「議事録・翻訳・メール下書きなどの定型業務」が中心で、人事評価やタレントマネジメントへ広がりつつある段階です。

約4割という水準は、正社員全体の生成AI利用率54.3%(パーソル総研の別調査)を下回っています。 人事部は個人情報を大量に扱う部門であり、情報漏洩への不安66.7%がブレーキになっているのは自然な結果です。

ただし「AI推進に関与していない」45.6%は別の問題です。全社のAI活用が進むほど、必要な人材要件も評価基準も変わります。その設計に人事が関与していない状態は、採用要件が実態からずれる原因になります。

人事部そのものが人手不足

そして最も重い数字がこれです。

人事部が直面する課題割合
人員不足45.2%
専門性不足44.6%
企画構想力の低さ39.3%

採用を担う部門自身が、人員不足と専門性不足を抱えています。

この構図が意味することは深刻です。

  • 賃上げは採用・定着のために実施される(判断要素の上位2つ)
  • しかしその施策を設計・実行する人事部が人員不足(45.2%)
  • AI活用による省力化も39.2%にとどまる
  • 結果として、施策の量は増えるが実行の質は上がりにくい

実務への示唆

1. 賃上げを「採用施策」として設計する

物価対応として上げるなら一律で構いませんが、採用強化として上げるならどの職種・どの層の採用を改善したいのかを特定すべきです。一律の賃上げは人件費が増えるわりに、採りたい層への効果が薄くなります。

初任給を上げるのか、特定職種のレンジを上げるのか、地域別に差をつけるのか。目的が採用なら、効果測定の対象は応募数と内定承諾率です。

2. 人事部の工数を先に確保する

施策を増やす前に、実行する体制があるかを確認してください。人員不足45.2%という状態で新しい施策を追加すれば、既存業務の質が下がります。

工数の実態は測れます。応募者1名あたりの工程別所要時間は、面談後の記録21分、日程調整14分、連絡往復13分(ゼクウ調査の中央値)。自動化で削れる部分を先に削ってから、施策を足すのが順序です。

3. AI活用は「人事情報を扱わない業務」から

情報漏洩への不安66.7%は正当です。ただし全面的に止める必要はありません。候補者の個人情報を含まない業務(求人原稿の作成、面接質問の設計、調査データの整理、社内資料の作成)から始めれば、リスクを抑えて工数を削れます。

人事評価やタレントマネジメントへの適用は、データの取り扱いルールを整備してからで十分です。

まとめ

  • 賃上げを実施・予定する企業は73%(2022年61.8%)、「改定なし」は7.8%まで減少
  • 判断要素の上位は物価動向29.7%、離職防止26.2%、優秀人材の採用強化24%。業績は上位に入らない
  • 日商・東商調査でも賃上げの60.9%が「防衛的」、初任給引き上げ理由の最多も「求職者へのアピール」59.8%と整合
  • 人事部のAI活用は39.2%で、正社員全体の生成AI利用率54.3%を下回る。情報漏洩への不安が66.7%
  • 人事部自身が人員不足45.2%・専門性不足44.6%を抱えている
  • 施策を増やす前に工数を確保する。AI活用は個人情報を扱わない業務から始める

出典・参考資料

  1. 人事トレンド調査2026(賃上げ判断基準とAI活用) (HRプロ(パーソル総合研究所調査))
  2. 中小企業の賃金改定調査(賃金改定率4.29%) (労働政策研究・研修機構(日本商工会議所・東京商工会議所調査))
  3. 初任給を引き上げた企業は89.1%、平均23.8万円に (求人ボックス ジャーナル(マイナビ調査))

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