介護職の求人票には「未経験歓迎」が並びます。しかし実際に転職してきた人の68.4%は前職も介護・医療職でした。異業種からの流入は、募集要項に書いてあるほどには起きていません。この市場構造を数字で確認したうえで、母集団を増やす以外の打ち手を整理します。
調査の前提
エッセンシャルワーカー採用研究所(プレックス)が2026年7月に公開したレポートで、介護職を希望する求職者907件と求人データを分析したものです。
同研究所は人材紹介事業を持つ企業の調査機関である点は踏まえて読む必要がありますが、実際の求職者データにもとづく分析であり、アンケート調査より実態に近い数字が出ています。
市場構造を示す5つの数字
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 前職が介護・医療職 | 68.4%(調査対象職種で最高) |
| 求職者の年齢中央値 | 47歳 |
| 50代の求職者 | 30.4% |
| 40代の求職者 | 24.6% |
| 正社員求人の比率 | 96.1% |
| 提示年収の中央値 | 329万円 |
| 求人企業の従業員数中央値 | 250人 |
40代以上が求職者の約7割を占めます。そして転職理由の最上位は「労働条件」で、給与・年収への不満が中心でした。
「未経験歓迎」で母集団は増えない
この数字が示しているのは、介護の採用市場が業界内での経験者の移動でほぼ完結しているということです。
多くの施設が「未経験歓迎」「資格取得支援あり」と打ち出していますが、実際に応募してくるのは経験者が7割近い。つまり同じ表現を全社が使っている状態で、経験者から見れば差がありません。
さらに、転職理由の中心が給与・年収である以上、経験者は条件の比較で選んでいます。求人票の書き方を工夫する以前に、提示条件そのものが検討対象に入っているかが分かれ目になります。
年収中央値329万円という水準に対し、自社がどの位置にいるか。ここを確認せずに「応募が来ない」と媒体を変えても、結果は変わりません。
もう一つの導線:派遣から直接雇用へ
異業種からの流入が限定的なら、経験者の奪い合いになります。しかし、それを回避する導線が実際に機能しているというデータがあります。
ネオキャリアが2026年8月19日に発表した調査です。介護派遣サービス「ナイス!介護」で、2024年1月〜2025年12月に派遣として就業を開始し、その後直接雇用へ転換した約900人を分析したものです。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 平均就業期間 | 474日(約1年3か月) |
| 1年未満で転換 | 60.6% |
| 3か月未満で転換 | 24.7%(最多区分) |
| 2年以上経ってから転換 | 21.6% |
| 直接雇用後、半年間の就業継続率 | 85.3%(602人対象) |
年代別では50代28.0%、40代23.9%、20〜30代で28.0%、60代以上20.2%と、求職者全体の年齢構成と近い分布です。
なぜ派遣経由が機能するのか
注目すべきは**直接雇用後の継続率85.3%**です。
通常の中途採用では、入社後のミスマッチが早期離職の最大要因になります(別調査では「仕事内容と期待のミスマッチ」が56.9%)。ところが派遣経由の場合、採用を決める時点で双方が実際の就業を経験しています。
- 施設側:本人の働きぶり、他スタッフとの相性を見たうえで判断できる
- 本人側:職場環境、業務量、人間関係を体験したうえで決められる
面接で見極めようとしていたことを、就業実績で確認できる構造です。3か月未満での転換が24.7%と最多であることは、判断に長期間を要していないことも示しています。
一方で2年以上経ってからの転換も21.6%あります。すぐに決めない層も一定数いるため、派遣スタッフを「いずれ直接雇用の候補」として継続的に見る運用が有効です。
打ち手の優先順位
以上を踏まえると、介護採用で効く順序は次のようになります。
1. 提示条件を市場中央値と照合する
転職理由の中心が給与・年収である以上、ここが検討の土俵に乗るかを決めます。年収中央値329万円に対する自社の位置を確認してください。条件が下回っている状態で募集手法を変えても効果は限定的です。
2. 派遣を「採用の前段」として設計する
短期の人手不足対策としてではなく、直接雇用の候補者と出会う導線として位置づけます。1年未満で6割が転換している実績があり、直接雇用後の継続率も85.3%と高い水準です。
派遣スタッフへの接し方(業務の任せ方、情報共有の範囲)を、将来の直接雇用を前提に見直す価値があります。
3. 40〜50代を前提に募集要項を組む
求職者の年齢中央値は47歳、40代以上が約7割です。20〜30代を想定した訴求(キャリアアップ、成長環境)は主要層に届きません。
体力面への配慮、勤務時間の柔軟性、家庭との両立、これまでの経験を評価する姿勢。こうした要素のほうが響きます。
4. 未経験者向け施策は「別枠」で考える
未経験歓迎を求人票に書くこと自体は否定しません。ただしそれで母集団が増える前提で計画を立てないことです。未経験者を本気で取りにいくなら、育成体制の明示、資格取得の具体的支援内容、初年度の業務範囲まで書き込む必要があります。
異業種・自治体の参入も始まっている
担い手不足に対して、業界外からの参入も出てきました。日本生命がビースタイルメディアと連携し、北九州市で介護助手の採用・育成支援を実証すると報じられています。知見を蓄積したうえで全国の自治体へ順次拡大する方針とされています。
この記事は有料会員限定のため、施策の詳細と規模は確認できていません。
「介護助手」という職域を切り出す発想は、前述の未経験者流入の課題に対する一つの回答です。介護職そのものではなく、周辺業務から入り口を作るというアプローチであり、施設単位でも参考にできます。
まとめ
- 介護職への転職者の68.4%は前職も介護・医療職。異業種からの流入は限定的
- 求職者の年齢中央値は47歳、40代以上が約7割。正社員求人が96.1%、提示年収の中央値は329万円
- 転職理由の中心は給与・年収。募集手法より提示条件が検討の土俵を決める
- 派遣から直接雇用への転換は60.6%が1年未満、3か月未満が24.7%と最多。平均就業期間は474日
- 直接雇用後の半年継続率は85.3%。面接で見極めていたことを就業実績で確認できる構造
- 打ち手は「条件の照合 → 派遣を採用の前段に位置づける → 40〜50代前提の設計」の順
出典・参考資料
- 介護職の採用市場レポート(求職者907件と求人データの分析) (エッセンシャルワーカー採用研究所(プレックス))
- 介護派遣から直接雇用への転換に関する調査 (ネオキャリア)
- 日本生命、介護採用支援に参入 (日本経済新聞)
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