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労務から人事企画へ|賃上げ判断が「業績」から「人材確保」へ移った意味

賃上げを判断する要素の上位は物価29.7%・離職防止26.2%・優秀人材の採用強化24%で、業績は入っていません。制度運用を担ってきた労務担当が、企画側へ移るための足がかりと、企業側が抱える課題を整理します。

労務は「決められたルールを正確に運用する仕事」と見られがちです。しかし**いま企業が抱えている課題の多くは、制度の設計そのものにあります。**運用側にいる労務担当が、企画側へ移るための足がかりを整理します。

賃上げの判断基準が変わった

パーソル総合研究所が2,000名(係長以上および経営・役員)に実施した調査です。賃金を引き上げた/引き上げ予定の企業は73%(2022年の61.8%から上昇)、「改定なし」は**7.8%**まで減りました。

判断する際の要素の上位はこうです。

要素割合
物価動向29.7%
従業員の離職防止26.2%
優秀人材の採用強化24%

業績は上位に入っていません。

日本商工会議所・東京商工会議所が2,260社に実施した調査でも、賃上げ実施企業の60.9%が「防衛的賃上げ」(物価対応や人材確保が理由)と回答しています。小規模企業では66.3%です。

**賃金が業績の配分ではなく、人材確保の手段になった。**これは労務の仕事の性質を変えます。

何が変わるのか

従来、賃金改定は「業績が出たから配分する」という流れでした。この場合、労務の役割は決まった率を正確に反映することです。

しかしいまは「採用と定着のために上げる」という判断です。すると次の問いが発生します。

  • どの層に配分すれば離職が止まるのか
  • いくら上げれば採用市場で戦えるのか
  • 既存社員との逆転をどう防ぐか
  • 人件費全体はどこまで許容できるのか

**これは制度設計の問いです。**そして、答えるには賃金テーブル・等級・評価の構造を理解している必要があります。

その構造を最もよく知っているのは、運用している労務担当です。

企画側で足りていないもの

同じ調査で、人事部の課題として挙がったものです。

課題割合
人員不足45.2%
専門性不足44.6%
企画構想力の低さ39.3%

**企画構想力が3番目に挙がっています。**運用はできているが、設計ができていないという企業が一定数あるということです。

労務が持っている「企画に効く」もの

1. 制度の実際の動き方を知っている

制度は設計図どおりには動きません。例外処理、運用の抜け道、現場の実態を知っているのは運用側です。

企画側で「良い制度」を作っても、運用できなければ意味がありません。運用可能性を判断できることは、そのまま企画の質になります。

2. 法令の制約が分かる

労働基準法、労働契約法、社会保険関連法。制度設計は法令の枠内で行う必要があります。

企画の議論で「それは法的にできません」「この形なら可能です」と言える人材は、議論の速度を上げます。

3. 全社員のデータを見ている

給与、勤怠、等級、異動。労務は全社員の情報に日常的に触れています。

企画に必要なのは、まさにこのデータです。「どの層の残業が多いか」「どの等級で滞留しているか」を、既に見ている立場にあります。

移るための3つの足がかり

足がかり1:運用データを分析して示す

**いちばん確実な方法です。**手元にあるデータを分析し、課題として提示します。

例:

  • 等級別・部門別の残業時間の偏り
  • 入社後◯年での離職が多い層
  • 賃金カーブと、同業他社の求人提示額との比較

**「気づいたので分析しました」という形で提出できれば、それは企画の実績です。**依頼される前に出すことが重要です。

足がかり2:定着の課題に手を出す

アイ・ラーニングが従業員50名以上の企業で新入社員育成に関わる500名に実施した調査では、81.2%の企業が定着に課題を感じています。

要因の上位はこうです。

要因割合
仕事内容と期待のミスマッチ56.9%
人間関係53.3%
教え方の統一が欠けている42.2%

そして、**入社後に身につけるべきスキルが「明確化されている」企業はわずか14.2%**でした。

**86%の企業が持っていないものを作れば、それは企画の成果物になります。**入社後3か月の到達目標を文書化することは、労務の立場からでも着手できます。

足がかり3:働き方の制度設計に関わる

パーソル総合研究所が30,614名に実施した調査では、テレワーク実施率は21.4%(前年同期比-1.1ポイント)に低下する一方、実施者の81.6%が継続を希望しています。「原則出社」の指示は2年連続で増加しました。

会社の方針と本人の希望が逆を向いています。

勤務制度は労務の管轄です。フレックス、時差出勤、在宅の条件設計は、労務が主導できる領域であり、そのまま人事企画の実績になります。

転職で移る場合

社内で移れない場合、転職という選択肢があります。ただし求人票の「人事企画」は、企業によって指す範囲が違います。

求人票の表現実際の業務の可能性
人事企画制度設計/要員計画/人事データ分析のいずれか、または全部
人事制度等級・評価・報酬の設計
HRBP事業部門への人事支援。企画より現場寄り
労務(企画含む)運用が中心で、企画は一部

**面談では「企画の割合はどのくらいか」を具体的に聞いてください。**運用8割・企画2割という求人も珍しくありません。

管理部門特化型のエージェントは、人事の中で採用・労務・制度のどれを指すかを前提に会話できるという違いがあります。総合型では「人事経験◯年」で括られやすい部分です。

まとめ

  • 賃上げの判断要素の上位は物価29.7%・離職防止26.2%・採用強化24%。業績は上位にない
  • 賃金が業績の配分から人材確保の手段に変わり、制度設計の問いが増えた
  • 人事部の課題では企画構想力の低さが39.3%。運用はできるが設計ができていない企業がある
  • 労務が持つ「運用の実際」「法令の制約」「全社員データ」は、そのまま企画に効く
  • 足がかりは3つ。運用データの分析/定着課題への着手/働き方の制度設計
  • 入社後スキルを明確化している企業は14.2%。86%が持っていないものを作れば実績になる
  • 求人票の「人事企画」は範囲が曖昧。企画の割合を具体的に確認する

出典・参考資料

  1. 人事トレンド調査2026 (HRプロ(パーソル総合研究所調査))
  2. 中小企業の賃金改定調査(賃金改定率4.29%) (労働政策研究・研修機構(日本商工会議所・東京商工会議所調査))
  3. 新入社員育成・定着課題調査2026 (日本の人事部(アイ・ラーニング調査))
  4. 2026年7月のテレワーク実施率調査 (求人ボックス ジャーナル(パーソル総合研究所調査))

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