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CAREER

「一人人事」のキャリアリスク|専門性不足44.6%が示す構造

一人で人事を回している状態は、経験の幅が広がる一方で専門性が積み上がりにくい構造を抱えます。企業側が「専門性不足」を44.6%で課題に挙げるなか、一人人事の経験をどう市場価値に変換するかを整理します。

採用も労務も制度も、一人で回している。中小企業やベンチャーでは珍しくない体制です。幅広い経験が積めるという言い方をされますが、市場価値の観点では逆に働くこともあります。企業側のデータから、その構造と抜け出し方を整理します。

企業が求めているのは「幅」ではない

パーソル総合研究所が2,000名(係長以上および経営・役員)に実施した調査では、人事部の課題は次のとおりでした。

課題割合
人員不足45.2%
専門性不足44.6%
企画構想力の低さ39.3%

人員不足と専門性不足がほぼ同率という点が重要です。

もし課題が人員不足だけなら、「何でもできる人」の価値は高くなります。しかし同率で専門性不足が挙がっている以上、企業が探しているのは特定領域を深くやった人です。

一人人事の経験は「幅」として語られがちですが、求人側が欲しいのは幅ではないという前提を先に押さえる必要があります。

一人人事が構造的に抱える3つの制約

制約1:仕組み化まで到達しにくい

採用管理システムの導入率は**83.6%に達している一方、応募から面接予約までを完全自動化できているのは22.8%**です。夜間・休日を含む初回面接案内の自動化率は34.5%にとどまります。

ツールは入っているのに回っていない企業が大多数という状況です。

一人で回している場合、この傾向はさらに強まります。設定を詰める時間より、目の前の応募者を捌く時間が優先されるためです。結果として「ツールを使っていた」経験は残るが、「自動化率を改善した」経験は残りません。

制約2:作業に時間を取られ、設計に回らない

工程別の所要時間(中央値)です。

工程時間
面談後の記録21分
日程調整14分
連絡往復13分
合否・社内すり合わせ12分
採否連絡10分
書類確認4分

単純合計で応募者1名あたり74分です。月20名の応募があれば約25時間が作業に消えます。

さらに、業務量の増加によって応募者対応の質が低下することが「時々ある」以上と回答した担当者は**53.5%**でした。一人体制では、この比率はさらに高くなると考えるのが自然です。

制約3:手法を更新する余裕がない

人事1,000名を対象とした調査では、**76.4%が「採用判断はどう見極めるかから、どのような情報を得るかへ変化している」**と実感し、79.9%が本人から提供される情報だけでは不十分としています。

第三者情報の活用は26.5%、検討・情報収集中を含めると約9割です。

**業界の手法が動いているのに、一人体制では追随する時間がありません。**5年前と同じ運用を続けていた場合、経験年数は増えても市場価値は上がっていない可能性があります。

それでも一人人事にしかない強みがある

構造上の制約を挙げましたが、一人人事にしか作れない経験も明確にあります。

決めた経験がある

複数人の人事部では、制度設計は上位者が決め、担当者は運用します。一人人事は自分で決めています。

企業が「企画構想力の低さ」を39.3%で課題に挙げていることを踏まえると、**決めた経験は希少です。**ただし「決めた」だけでは伝わりません。何を根拠に、どんな選択肢の中から決めたかまで語る必要があります。

経営との距離が近い

一人人事は経営者と直接話す場面が多くなります。賃上げの判断要素が「物価動向」29.7%、「従業員の離職防止」26.2%、「優秀人材の採用強化」24%と、経営判断と人事施策が直結している現在の状況では、この経験は評価対象になります。

全体を見た経験がある

採用・労務・制度・育成を分断せずに見た経験は、大企業の分業体制では得られません。ただしこれは「幅」として語ると弱くなります。「採用の失敗が定着に与える影響を、両方見た立場で分かる」という形にすると意味が変わります。

市場価値に変換する3つの方法

方法1:1領域を選んで深さを作る

**すべてを深めるのは不可能です。**採用・労務・制度のうち、1つを選んで数字を持つ状態にします。

たとえば採用を選ぶなら、次のような具体化ができます。

曖昧な経験数字を持った経験
採用業務全般を担当応募から面接予約までの自動化率を◯%から◯%へ改善
母集団形成を実施媒体別の有効応募単価を可視化し、予算配分を組み替えた
面接を実施選考の滞留要因を工程別に測定し、日程調整の工数を◯分削減
定着施策を担当入社後3か月時点の到達目標を文書化し、離職率を◯%改善

**測ることは一人でもできます。**1週間分の工程別記録を取るだけで、業界中央値との比較ができます。

方法2:仕組みを1つ作って残す

作業に埋もれた経験は語りにくく、仕組みを作った経験は語れます。

企業側のデータでは、入社後に身につけるべきスキルが「明確化されている」企業はわずか**14.2%**です。定着課題の要因では「教え方の統一が欠けている」が42.2%を占めます。

**入社後3か月の到達目標を文書にする。**これは一人でもでき、86%の企業が持っていないものを作ったことになります。

方法3:手法の更新を1つ実行する

第三者情報の活用は26.5%にとどまります。導入するかどうかは別として、検討して結論を出した経験は「手法を更新できる人」の証明になります。

導入しない判断でも構いません。なぜ導入しないと決めたかを説明できれば、判断した経験として成立します。

転職を考えるときの選択肢

一人人事からの移動先は、大きく3方向あります。

移動先得られるもの注意点
大企業の人事部専門性の深さ、体系的な制度担当範囲が狭くなり、決める機会は減る
成長企業の人事責任者決定権、経営との距離一人人事の課題が規模だけ大きくなる可能性
人事系サービス・コンサル複数社の事例、手法の体系当事者として実行する機会は減る

**「幅を活かす」で選ぶと、また一人人事になります。**どの制約を解消したいかを先に決めるのが現実的です。

なお、管理部門に特化した転職エージェントは、人事の中でも採用・労務・制度のどこを指すかを前提として会話できるという違いがあります。総合型では「人事経験5年」で括られやすい部分です。

まとめ

  • 企業の課題は人員不足45.2%と専門性不足44.6%がほぼ同率。求められているのは幅ではない
  • 一人人事は構造的に3つの制約を抱える。仕組み化に到達しにくい/作業に時間を取られる/手法を更新する余裕がない
  • ATS導入率83.6%に対し完全自動化22.8%。「使っていた」経験は残るが「改善した」経験は残りにくい
  • 応募者1名あたりの工程別合計は74分。月20名で約25時間が作業に消える
  • 一方で「決めた経験」「経営との距離」「全体を見た経験」は希少。ただし語り方で価値が変わる
  • 変換の方法は3つ。1領域を選んで数字を持つ/仕組みを1つ作る/手法の更新を1つ実行する
  • 入社後3か月の到達目標の文書化は一人でもでき、86%の企業が持っていない

出典・参考資料

  1. 人事トレンド調査2026 (HRプロ(パーソル総合研究所調査))
  2. 採用管理システム(ATS)利用実態調査2026 (日本の人事部(ゼクウ調査))
  3. 採用業務の「見えない工数」実態調査2026 (日本の人事部(ゼクウ調査))
  4. 採用判断の実態調査(人事1,000名) (日本の人事部(back check調査))
  5. 新入社員育成・定着課題調査2026 (日本の人事部(アイ・ラーニング調査))

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